- 代々木ゼミナールに激震 ~ 実は不可避だった運命
-
「代々木ゼミナールが来年度いくつかの校舎を閉めるらしい」と友人講師から聞いた時は、「とうとうそうなったか、予想より少し早かったかな」と正直あまり驚くことはなかったのですが、その後連日ニュースでも大きく報道されるだけでなく各局のワイドショーでまで取り上げられ、その方針が、7割の校舎を閉鎖し、更に来年1月のセンターリサーチもやらない、全国模試も一部を除き廃止ということを知り衝撃を受けました。
代ゼミの運営方針では いつかはこういうことになるだろうと思ってはいたものの、数年前までの20数年間 代ゼミで教鞭をとった身としては少し寂しいものがあります。と同時に、ニュースやワイドショーで報道されたり、インターネットで書かれていることは、長年内部にいた立場から見ると明らかに違うなと思うことも少なくありません。
昔「金ピカ先生」として有名になったものの何十年も前に代ゼミをクビになった佐藤忠志に「元代々木ゼミナール講師」として取材に行くようなマスコミもどうかと思いますが、ある意味その当時の象徴的な講師像だったのかもしれません。指導教科の知識や実力に関係なく、派手なパフォーマンスや奇抜な見た目、目先の面白さなど何でもアリ「とにかく生徒の数を集められれば何でもいい」というタレント的な講師を多く輩出し、それを重用してきたのも代ゼミでした。
浪人生が溢れるようにいた時代は経営的にはそれで成功していたのでしょう。事実、全盛期の代ゼミは全国に次々に校舎を新設し、代ゼミ進出前の地元の塾・予備校を淘汰しながら規模を拡大していきました。講師の報酬も高額で、人気があれば(担当講座に生徒が集まれば)毎年どんどん給料もアップし、当時まだまだ若手講師だった私自身も「高々90分の講義でこんなにもらっていいのか」と思ってしまうほどでした。一方で、生徒を集めらず半年でクビになる講師も見てきました。
結果、当然ほとんどの講師が「とにかく生徒が集まる」ことに躍起になり、本当に生徒を合格させるための授業が行われているかいうと疑問に思うことも少なくありませんでした。優れた実力・指導力を持っていながら、パフォーマンスを嫌い辞めていった優秀な講師も数多くいました。
当時の私はというと、パフォーマンスでも何でも自分の授業を受けることによって生徒が勉強に一所懸命に取り組むようになれば、それはそれでいいのかもしれない、授業で教えられることは限られているし、生徒がやる気を出してくれて自分でやる勉強が充実すれば必ず合格できるはずと信じて講義をしていました。無論、日々教材研究や指導法の工夫に頭を悩ませながら。
- 「大手予備校型」指導スタイルの終焉 ~ 映像系の時代なのか?
-
代ゼミが7割の校舎を閉鎖せざるをえない状況になった原因は、新聞・テレビ・インターネットなどに書かれているようなことだけではなく 実はもっと根深いものがあるのですが、大手予備校に代表される大人数の生徒を集めて一方的に講義するスタイルが終焉を迎えつつあるのは間違いないと思います。その意味では三大予備校の一角が崩れ、しばらくは安泰そうに見える河合塾、駿台予備学校もいずれ運営方針の転換を迫られるのは間違いないでしょう。
それでは、マスコミで言われているように「いまでしょ」で有名になった某講師が在籍する東進ハイスクールのような「映像系予備校」の時代になるのかというと、それも違うでしょう。宣伝の巧みさと一種のブームで勢いを増しているのは事実ですが、宣伝につられ、また部活などで時間がなく「いつでも好きなときに見て勉強できる」というのがメリットだと感じて入学したものの「時間がなく結局溜めてしまうだけだった」「高額な学費を支払ったのに失敗だった」とOKSに駆け込んでくる生徒が少なくないのも また事実です。
今求められているのは、一方的な講義で知識や技術を一所懸命詰め込み、入試でそれをいかにうまく取り出せるようにするかという指導ではありません。身につけた知識や技術をそのまま使うのではなく、自分の持っている道具をいかに応用するかという「問題解決型思考」ができるような指導が求められているのです。映像系予備校では仮に成功したとしても従来の「知識詰め込み型」の勉強に過ぎないのです。
- 真に求められる学習スタイル ~ OKSの先見性
-
しかしながらこれは大手予備校の一方的な一斉講義では実現不可能です。生徒の反応や返答に合わせて臨機応変に知識・ヒントを与えたり、それをもとに考えさせる時間をとったり、どこが理解できていないのかを気づかせたり… それは少人数指導が必須です。しかも、ただ少人数であればよいのかというと、もちろん違います。教える方の力量もかなり必要で、そこにこそ大手予備校で経験を積んだプロフェッショナルの力が必要となるのです。
学生アルバイト講師やそれとあまり変わりない程度の講師が講義する塾や個別指導では到底無理で、少し考えればおわかりだと思いますが、ただ一方的に垂れ流される映像を自分一人で見るだけの映像系の塾・予備校なども論外です。それで成功するのは、実はもう基礎学力が備わっていて、しかも自分の計画通りにビデオ教材を計画的に視聴できる生徒だけです。でも考えてもみてください。そのような生徒ならば、何も無駄に高額な学費を支払ってまで映像系予備校に通わなくとも市販の教材で十分合格できる力をつけられるのです。強いて言えば、その学習の中で湧いた疑問を聞いて解決できる先生が身近にいれば十分です。事実OKSでも、授業を受講せず自習室だけを使い自分で勉強し、教材の選定や勉強法のアドバイスや質問・相談だけをしながら見事第1志望の大学に合格する生徒もいます。
OKS講師陣は一方通行の指導にいずれ限界がくることを早くから見抜き、大手予備校方式ではない「考える力」を養成する指導を行ってきました。そのため、むやみに多くの授業を受けさせることは避け、自分で学習する時間をしっかり確保し、自学自習に対して講師常駐でしっかりサポートするという体制を守ってきました。高卒生に対しても基本姿勢は同じで、そのため「大手予備校より授業数が少なくて大丈夫か」という意見をいただくこともありますが、受験を終えて振り返ってみると「それでいいんだ」という言葉を信じて頑張ったのが正解だったと言ってくれます。
代々木ゼミナールの拠点大幅閉鎖に思うことは他にもいろいろありますが、それはまた機会を改めて。