ダイレクトメールに掲載した「本格的論述問題にチャレンジしてみよう!」の問題解答です。
一見 簡単そうに見える整数問題 ~ いざ解くとなると方針が思い浮かばない…
\(n\) を2以上の整数とする。自然数(1以上の整数)の \(n\) 乗になる数を \(n\) 乗数とよぶことにする。
(1) 連続する2個の自然数の積は \(n\) 乗数でないことを示せ。
(2) 連続する \(n\) 個の自然数の積は \(n\) 乗数でないことを示せ。
東京大学2012年の入試問題です。前回のDMに引き続き今回も整数問題を取り上げます。他にもいろいろと取り上げたい分野もあるのですが、高1生もチャレンジできるようにということで、この分野から紹介してみます。
一見「簡単そうかな」と思えるかもしれませんが、いざ解き始めようとすると手がつかない、方針が思い浮かばないという1題です(東大受験生にとってはそうではないことを願いますが)。仮に方針が立ったとしても、減点されない緻密な答案を作成するにはかなりな実力を要します。また、「 \(n\) 乗数」という聞きなれない言葉に戸惑う受験生もいるかもしれません。難関大では、思考力を試すために、新しい概念を定義してそれに沿った出題がなされることも少なくありません。その意味では、今回の「 \(n\) 乗数」は、まだ理解しやすいものと言えます。
まず、「~でないことを示せ」とあるので、まぁこれはたぶん背理法でいくんだろうなと見当をつけます。つまり「~である」と仮定すると何かおかしなことになるよ、ということを示せばよいわけです。
で、まず(1)。連続する2個の自然数の積 \(k(k+1)\) が \(n\) 乗数とすると…
例えば、仮に \(k(k+1)=15^2\) と書けたとすると \(k(k+1)=3^2\cdot 5^2\) となる。でも、ここで「ちょっと待てよ。連続する2個の自然数 \(k\) と \(k+1\) は互いに素(※1)だから…」ということに思い至るかどうかが、解けるかどうかのポイントです。
\(k\) と \(k+1\) が互いに素ということは、右辺の素因数3は \(k\) か \(k+1\) いずれか一方にしか含まれてはいけません。そうでないと「互いに素」でなくなってしまいます。右辺の素因数5についても同様ですから、結局 \(3^2\) 、 \(5^2\) のいずれも、 \(k\) または \(k+1\) の一方に入っていることになり、
\((k,k+1)=(1,15^2) または (3^2,5^2)\)
となるため、 \(k\) と \(k+1\) はいずれも2乗数(平方数)ということになります。
ところが、2乗数(平方数)は \(1,4,9,16,25,\ldots \) のように並んでいて、連続する2つの自然数がともに2乗数(平方数)になることはありません。これを一般化して答案を作ればよいことになります。
※1
難関大受験生にとっては常識でしょうが、「互いに素」というのは「1以外の公約数を持たないこと」です。「ともに素数」と勘違いする受験生もいますが、違います。もちろん、ともに素数の場合は当然互いに素になりますが、ともに素数でなくても例えば12と35も1以外の公約数を持たないので互いに素です。
(1)の解答例
連続する2個の自然数 \(k\),\(k+1\) の積が \(n\) 乗数であると仮定すると,
\(k(k+1)=l^n\) ( \(l\) は自然数)
と表わせて,
\(l={p_1}^{q_1}\cdot {p_2}^{q_2}\cdot \; \cdots \; \cdot {p_m}^{q_m}\)
と素因数分解できるとすると,
\(k(k+1)={p_1}^{q_1n} \cdot {p_2}^{q_2n} \cdot \; \cdots \; \cdot {p_m}^{q_mn}\)
ここで,\(k\) と \(k+1\) は互いに素であるから、右辺の素因数 \(p_1\) は \(k\) または \(k+1\) のいずれかにすべて含まれる.これは,\(p_2,\ldots ,p_m\) についても同様であるから,\({p_1}^{q_1n},{p_2}^{q_2n},\ldots ,{p_m}^{q_mn}\) はそれぞれ \(k\) または \(k+1\) いずれかの因数となる.
このことより,\(k\) と \(k+1\) はともに \(n\) 乗数となる.・・・(I)一方、\(n\) 乗数の差は \(1^n\) と \(2^n\) のとき最小となり,
\(n\) 乗数の差の最小値は,\(2^n-1^n \ge 4-1=3\) であるから、連続する2個の自然数がともに \(n\) 乗数となることはなく、このことは上の結果(I)に矛盾する.したがって,連続する2個の自然数の積が \(n\) 乗数となることはない.(Q.E.D.)
この問題を解くカギは「連続する2個の自然数は互いに素である」ということです。これを利用するとうまくいきそうだと気づくことと、それを使ってスキのない答案を書けたかどうかが合否の分かれ目になったと考えられます。
さて、ではこれをヒントに(2)の答案を作ってみよう!
これで完璧!という答案ができた人は、ぜひOKSに持ってきてみてください。OKS講師が実力判定と、それに応じた今後の最適な学習法をアドバイスします!